総合診療科の日々是好日@大阪

大阪府内の病院で家庭医・総合診療をしています。日々のカンファや学びの内容をブログで紹介しています。「教育なくして成長なし」と日々思います。

2020/05/10 話題のremdesivirはCOVID19に対してどの程度有効?RCTから

4/29にLancetから文献がでて日本や米国でも緊急承認の運びとなっています。
どのような内容なのか考えてみたいと思います。
 
【背景】
レムデシベルはDNAやRNAの基本構造であるヌクレオシドのプロドラッグで、MERSやCOVID-19においてvitroでの抑制効果が指摘されている。COVID-19においては15%が酸素投与が必要な重症肺炎に移行する。ただ残念ながらこれまでCOVID-19に対して確立した治療法はない。
国内で承認されているアビガンは、発症12日以内の患者でのRCTでarbidol(国内にはない抗インフルエンザ薬)と比べて投与7日目での症状改善に有効(71%:70/98人 vs 56%:62/111人)な可能性が言われているが、重症例ではともに改善はなかった(1人 vs 0人)。他の治療法の検索の一つとして、今回レムデシベルの有効性の評価を行った。
 
【PICO/PECO】
P:18歳以上・SpO2 94%以下・PF ratio300以下・画像的に肺炎が確認されているCOVID-19陽性・発症12日以内
 で合計237人がenrollされた
 除外:妊娠・肝酵素が正常の5倍以上の肝硬変・CKD(eGFR<30)や透析患者・72時間以内に他院に転院の可能性のある人・30日以内にCOVID-19の他の臨床研究に参加(ただし、lopinavir–ritonavir使用は認める)
I:レムデシベル:初日200㎎静注、以後は10日目まで100㎎/日静注
(2:1に割り付けでレムデシベルの患者が多い)
O:ランダム化して28日以内での臨床的改善までの期間
 臨床的改善の定義:入院時と比べて6 point scaleで2点以上の改善 or 生存しての退院
 ※6 point scale
 1:酸素不要で咳嗽などのみ 自宅療養
 2:酸素不要だが入院が必要
 3:酸素投与 
 4:NHFやNPPV
 5:人工呼吸管理・ECMO
 6:死亡
 
【吟味】
Backgroundは同等か:50-70歳の年齢層にともになっており性別の比率も同様。
 基礎疾患:70%に基礎疾患があるが30%は共に基礎疾患がない。高血圧4割・DM2割で同率。
      心不全が9%(15/158) vs 3%(3/78)とレムデシベル群で少し多い印象。
 重症度:両群とも80%がともに酸素投与が必要(category 3:82% vs 83%)
              15%程度がともにNHF or NPPV管理(category4:18% vs 12%)。
               プラセボ群でcategory1が3人、category 5 が1人いた。
 治療歴:ramdom化の前と前後の数では(その差が治療開始後に加えた数になる)
     抗菌薬:レムデシベル群 121(77%)→142(90%) プラセボ群 63(81%)→73(94%)
     ステロイド:レムデシベル群 60(38%)→102(65%) プラセボ群 34(40%)→53(68%)
     lopinavir–ritonavir:レムデシベル群 27(17%)→44(28%) プラセボ群 15(19%)→23(29%)
       INFα2b:レムデシベル群 29(18%)→46(29%) プラセボ群 15(19%)→30(38%)
    
  →ramdom化した前後での両群の他治療の割合は差がない
 
Intention to treat解析か:ITT解析である
Maskingはどの程度されているか:封筒で割り付けられるが、それはマスキングされていない
Numberは十分か:両群で80%のevent発生率があり10%の脱落があると想定すると合計453人が必要
 ただ
武漢でのoutbreakがコントロールされたことでの新規患者の減少
②ベットの確保のタイミング患者のほとんどが病状の後期にしかenrollできなくなったこと
 →2020年2月~3月で臨床研究は途中で終了となり分析が3/29に行われた。結果、検出率は予定していた80%から58%に低下している。
 
【結果】
臨床的改善までの期間:21日(13-28日) vs 23日(15-28%)
28日目での死亡率:22(14%) vs 10(13%)
 発症10日以内:8/71(11%)vs 7/47(15%) 
 発症11日以上:12/84(14%) vs 3/31(10%)
臨床的改善の割合:28日の時点で 103(65%) vs 45(58%)
 →いずれも統計学的な有意差はない
ウイルス量にも両群で差はなかった
副作用は両群で有意差のあるものはなかったが、便秘、低アルブミン血症、低K血症、血小板減少、貧血、ビリルビン増加というのはレムデシベル群で数として多かった。
 
【考察】
この時期で臨床研究をしながらCOVID-19の患者と対応していくというのはとても大変だったと思う。まずはその熱意と努力に心から敬意を表したいと思う。
その中で、
1)武漢での感染コントロールの影響で臨床研究が途中で中断されており必要なNまで達していない
2)両群とも割合は一定であるが、lopinavir–ritonavirやINFα2bなど他の研究中の薬剤が投与されており、死亡率や副作用の割合には影響がでている可能性がある。
3)これまでの研究では研修開始時に64%が挿管・ECMOという重症例であったが、今回はその割合は0.4%と比較的軽症であった。ただ当院で対応する範囲の患者層ではあり、その点は参考になる。
 今回の研究ではCKDや肝疾患のある人、妊婦などは除かれていて、有意は治療効果は認めていない。
 国内承認されているが、積極的には使用する気にはまだなれない。。今後も進んでいく研究結果をまとうと思う。